苦楽園

2001 -

平均斜度30°を超える急斜面に建つ住宅である。貴重な平地には直接建物を着地させず庭として利用し、平面上の要となる斜面部分に唯一支持地盤に達する基礎を設けて、そこにほとんどの荷重を集中させている。テーパーをつけたメインの1階ヴォリュームは、斜柱群によって軽く支えられると同時に、道路レベルと庭レベルを結ぶスロープが構造的にも「たが」のように働くことで安定的に空中に張り出している。インテリアは斜面地特有の景観をそのまま内部に取り込んで再構成している。単純に広く遠くまで見渡すという意味では、書斎の眺望が一番よく、大阪湾を望む大パノラマは人口規模で都合1000万人を見渡す。居間は、開口部の角度を微妙に振って木の間越しの眺めを確保しつつも、むき出しの地山が覗くピロティと一体となった穴蔵のような場所である。床壁とエントランスホールから下りてくる3次元的に捩じれた階段を、単一の人造石研出し仕上げとしたことにより、穴蔵の感覚は一層強められる。モザイクタイル張りの造形風呂は空中に飛び出した樹冠に抱かれたような場所にあり、シャワーの付いたデッキに直接出ることができる。さらには、1階のボリュームの下にガラスで囲われた寝室が隠されている。そのインテリアはガラス越しに、巨石積みの石垣、ランダムな斜柱群と背後のジャングルのような森によって構成されている。樹木にバウンドした柔らかい緑色の光に包まれる空間である。

所在地 兵庫県西宮市
用途 専用住宅
竣工年 2001
延床面積 187m2
構造/規模 S造、RC造、一部SRC造 / 地下1階、地上3階