常泉寺新位牌堂

2022 -

1000基の位牌を祀る位牌堂である。境内が建て詰まらないように注意し、視線や風が抜けていくように伽藍配置を決めている。西側玄関の前は大きく吹き放ちとして土庇を設け、管理用の車動線を確保した。延焼と裏山の土砂崩れに備えて本堂との接続部となる多目的室のブロックはRC造とし、木造の軒同士が迫り合う部分についても空中に防火壁を浮かべて延焼を防いでいる。また新位牌堂はスロープを備え、床の高い本堂へのバリアフリー動線としても機能する。
位牌を戴く広間は、葬儀や法要も可能な無柱空間とするために、小屋組に陶器浩一氏考案の三方格子と呼ぶ立体格子を用いた。最初に耐力壁となる4枚のRCキャンティ壁を立て、その上に三方格子と鉄板で構成したハイブリッドの小屋組を載せている。位牌壇と祭壇の背後がちょうどRC壁となるため、まるで位牌壇と祭壇が屋根を支えているようにも感じられる。広間の外周には縁が巡る。縁先に立つ木造列柱は、広間四隅と土庇に建つ丸柱と共に軸力を負担する。屋根全体のフォルムは、裏山の墓地からの見下ろしに配慮して、ヴォリューム感のある七寸勾配の寄棟とした。柱と小屋組の接合部は構造的な理由から多くの材を積み重ねる必要があったことから、あえて斗栱を意識した組物としている。
広間の四隅の開口には紙障子を建て込んでいる。透過光が縁甲板の床に反射して、広間と三方格子を優しい光で包み込んでくれる。内陣だけは、防火上の理由から陣笠のような鉄板の天蓋を掛け、床も瓦敷きとした。苦労したのは三方格子へのガラスの納まりである。試行錯誤の末、格子各段の水平継手の位置を揃えてFB縦使いの金物で接合することにより、FB間に縦長のガラスを落とし込むことができた。ガラス同士のジョイントはポリカ複層板を用いた。
常泉寺が立地する伊那谷には、天竜川に沿って多くの活断層が走るが、住職はむしろ平行する中央構造線が動いて古い木造本堂が倒壊することを心配されていた。この位牌堂には、今後予想される大地震に備えると共に、地域が立ち直って本堂が再建されるまでの何十年かを、仮本堂として機能することが期待されている。

所在地 長野県上伊那郡中川村
用途 寺院位牌堂
竣工年 2022年1月
延床面積 208m2
構造/規模 木造、RC造、鉄板造 / 地上1階