elastico

2010 -

普段当たり前のように用いる「仕上げ」という概念について考えてみた。
たとえば、土木とは躯体そのものである。建築は、通常、躯体と仕上げのふたつから構成されている。一方で、インテリアとはほぼ仕上げそのものである。とした時、「間仕切壁」という中途半端な存在の気持ち悪さが気になった。そこで、インテリアを、躯体を欠いた建築として考えてみた。そうすると間仕切壁が、躯体を欠いた「皮」のように感じられた。つまり「骨抜き」である。
この美容室のプロジェクトでは、骨を抜かれたペラペラの「皮」として、文字通り押せば揺れる2.3mm厚の薄い黒皮鉄板1枚で間仕切壁を形成している。それはある意味で、インテリアの打ち放しであるとも言える。つまり「躯体(コンクリート)+仕上げ」から「仕上げ」を取ったのが「コンクリート打ち放し」であるなら、「躯体(コンクリート)+仕上げ」から「躯体」を取れば「インテリア打ち放し」である。
何よりもまずお客様を気持ちよく美容室に招き入れたいと考えた。そこで、薄鉄板にバロックの曲線が持つ伸びやかさと弾力性を求め、ファサードを延長してインテリアに引き込んでいる。さらに、黒皮鉄板には外壁のレンガタイルを模して目地状の傷を卦書いた。キッチュなレンガ模様は、むしろ黒皮鉄板が持つ鉱物質の鈍い輝きを際立たせることになったが、2.3mmの実強度はその信頼感を心地よく裏切ってくれる。そして、全長36mの連続する1枚の鉄板の中に、直角に折れた出隅と伸びやかな曲面が交互に現れることで、ダブルクリップのような弾力感を生んでいる。

所在地 兵庫県西宮市
用途 美容室
竣工年 2010年
延床面積 83m2

photos by Takumi Ota