根浜海岸野外音楽堂

2012 -

(計画案)

岩手県釜石市根浜(ねばま)海岸に建つ旅館「宝来館」の女将のための家である。宝来館は先の津波で大きな被害を受けたが、3階以上は冠水を免れたため被災直後は周辺住民の避難所となり、また現在は根浜海岸の再生へ向けた一連のプロジェクトが始まっている。それらは建築的に見れば、残された基礎に継ぎ木するように、そこから生えるように順次ランドスケープを整えて行くというものである。流された別館の基礎を再利用したウッドデッキや、3m×14m大のみんなが集まれるRC製テーブル、津波に洗われた本館1階を包み込むトレリス等がすでに工事中であり、女将の家もまた全体のランドスケープの中に位置付けられている。
女将の家はまた、隣接して計画中の野外音楽堂のクラブハウスとしての役割を持つ。野外音楽堂自体は、昨年夏に根浜海岸で鎮魂のタクトを振った指揮者佐渡裕さんの支援で動き出したプロジェクトである。非対称なレイアウトは、あたかもルーテル派の説教台のように奏者と聴衆と指揮者が互いに角度を振って向き合うことにより周辺の美しい風景を取り込み、演奏と風景が溶け合うことを意図したものである。女将の家の屋根はステージ上に延びて音響反射板となり、客席の傾いたスラブがキッチン脇に坪庭をつくる。可動の畳スペースは桟敷席であると共に、時には第2のステージとして機能する。円形劇場と一体化した住居は、ミヒャエル・エンデが描いた「モモの家」のようである。
古くからの津波避難場所であった裏山の地形を利用した円形劇場は海岸沿いからもはっきりと望むことが出来て、海水浴客らの津波避難階段として機能する。つまりこの家は「自前の公共性」を帯びた津波避難階段付き住宅であると言える。

計画地 岩手県釜石市
Ⅰ期
用途  野外音楽堂、津波避難階段、ツリーハウス
延床面積 13㎡
施工面積  496㎡
構造/規模 PC造/ 361 席、木造 /地上1階
Ⅱ期
用途 談話室、クラブハウス、音響反射板
延床面積 90㎡
施工面積  225㎡
構造/規模 RC造、鉄板造 / 地上1階

photos by Yoshiro Masuda