『Katsuhiro Miyamoto』 Libria

2001〜10年につくられた10の住宅作品を、写真・図面・解説文より紹介する作品集。本書はイタリアで出版されたため、書籍本体はイタリア語と英語表記のみ。
付録として、笠原一人(京都工芸繊維大学大学院助教)による宮本佳明論「痕跡に補助線を引く」(日本語表記のみ)。

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建築家・宮本佳明の2冊目の作品集はイタリアから。

宝塚に拠点を置く宮本は、阪神淡路大震災直後の1996年に開催されたヴェニスビエンナーレで金獅子賞を受賞した日本館インスタレーション「震災と亀裂」、そして同震災で全壊判定を受けた生家を耐震補強で甦らせた「ゼンカイ」ハウス(97年)で知られるようになった建築家。その後も、急斜面に支持地盤に達する基礎を設けて樹木のように生えあがらせた住宅「苦楽園」や宅造地盤と既存石積み擁壁を堀削してつくった吹き抜け状の半地下住宅「クローバーハウス」、そして100年は持つコンクリートのシンボリックな大屋根とその下に展開する木造空間によって構成された「澄心寺庫裏」など柔軟な発想と作風で国内外から評価を受けてきた。しかしながらその一方で、いずれも同世代の建築家の作品とは一線を画した独自性を高く評価されながらも、一貫したスタイルやテーマが見えづらいという指摘もあった。

本書でイタリア人の編集者がセレクションしたのは、2001~2010年までに竣工した個人住宅10作品(苦楽園、スガルカラハフ、クローバーハウス、SHIP、grappa、「ハンカイ」ハウス、between、gather、澄心寺庫裏、birdhouse)。小規模な個人住宅でありながら、7~10カットずつの写真と解説文、図面が付き、丁寧な紙面構成になっている。また、Dana Buntarock氏(日本現代建築の研究者、カルフォルニア大学バクレー校教授)による、宮本のデビュー作から現在に至る経緯が分析された7ページにわたるイントロダクションが興味深く、宮本の一貫した問題意識の所在とその解決策としての表現に結実していく必然性に気づかせてくれる作品集に仕上がっている。ちなみに、ここ数年の間に竣工予定のプロジェクトは規模も少し大きくなり、個人住宅は含まれていない。本書は偶然ながらその区切りの出版となった。

(宮本佳明建築設計事務所広報・有田)