澄心寺庫裏

2009 -


お寺を流れる時間
青雲山澄心寺は、日本アルプスの山々に囲まれた長野県箕輪町にある古刹である。開山は1199年と伝えられ、曹洞宗の寺院としても550年の歴史を持つ。現在の伽藍は大きく1752年の法堂と1830年創建の客殿からなる。それらの増改築の歴史を辿ると、明らかに、変わるもの(=屋内空間)と変わらないもの(=大屋根)のふたつによって構成されていることに気付く。宗教空間を流れる百年単位の時間に寄り添うならば、新しい庫裏の計画にあたっても同じようにインフラとインフィルを分けて考えた方がよいと思われた。ここで、インフラとは100年、200年と永続する鉄筋コンクリートの大屋根であり、その下に自由に展開する軽快な木造軸組みがインフィルとなる。大屋根は時に自然の洞窟のように感じられることがある。そこに木軸が投げ込まれたものと見なせば、構成は三仏寺投入堂にも似る。

大屋根がつくる場所
大屋根の形状は、第一には格式の表現であり、伝統ある宗教空間の連続性を意識したものである。同時に、それは落雪の処理や動線計画、将来的に屋根を観客席とした時の座り心地といったパラメーターを満足するものである。そしてダブルルーフの構成は冬期には熱を蓄え、夏期には鉄筋コンクリートの大きな熱容量によって熱を遮るバッファーとなる。「流れ造り」のような非対称形断面は、境内地に対峙する北面、住宅としての南面という対比から導かれたものであるが、シェル構造と折板構造の組み合わせによって、大屋根の意匠と構造を合理的に整合させている。またランドスケープという観点から見ると、建築が雁行して次々と現れる「澄心寺式」の伽藍配置は、大屋根による境内の再編集という意味を持つ。

ビハーラとしての庫裏
若い第32世ご住職は、お寺を21世紀の「(共)コモン」のプラットフォームとして再生するという夢を抱かれ、その想いを建築という「形」に託すことを選ばれた。寺院が単に宗教儀式のためだけに存在するのではなく、住民が集い、展覧会やコンサート、人生相談などにも活用される。言わばビハーラ(安住・休息の地)としての庫裏である。大屋根はそれらすべてを優しく包容する。麓からもよく見える大屋根がアイコンとなってコモンの存在が視覚的に認識され、新しい庫裏が壇信徒をはじめ地域住民とお寺を繋ぐ尊い役割を果たすことを期待している。

所在地 長野県上伊那郡箕輪町
用途 寺院庫裏
竣工年 2009年
延床面積 213m2
構造 RC造, 木造
規模 地上2階+ロフト

photos by Takumi Ota