背負う家

1998 -

(計画案)

〜世の中に片付くなんてものは殆どありやしない。〜(夏目漱石『道草』より)

敷地は高速道路脇の鋭角の交差点に面している。高速道路には背を向けてテラス状の庭を取り込みながら所定の床を確保し、しかも交通事故の多い交差点からの車の飛び込みを避けて1階部分をセットバックさせたために、頭でっかちの断面構成となっている。
「背負う家」とは、物理的にモノをヨイショと背負う家、という意味である。現在クライアントは、約30立米のモノに囲まれながら、ある種博物館的な雰囲気の中で生活されているが、考えてみれば、住宅の中であれ外であれ、我々はだれしもモノに溢れた環境のなかで、薮を漕ぎ、ケモノ道を追うように都市を生きている。
多数の生活雑貨そのものや、それらを収納するための小物入れ、さらには家具類の置き場所について考えるとき、仮に「家全体が蔵である」と見なすことができれば、全てのモノは片づいていることになる。ツリー状の収納の階層管理を1ランク減らす。もしこの前提を受け入れることができれば、モノの海に自然発生する経路と居場所について考察することが、即ち住宅設計を意味し始める。それは形式として見れば、近代的な都市計画的手法を借りずに、住宅の中に集落を発生させるようなものかもしれない。

計画地 大阪府藤井寺市
用途 専用住宅
延床面積 99m2
構造/規模 S造、RC造 / 地上4階