2000 -

池田昌弘建築研究所と協働

「ヒ」という建物名称は、2枚のスラブと1枚の壁で構成されたヒの字型断面のRC躯体に因むものである。この住宅は既存敷地での建て替えであるが、スタラクチュアによって一般的な敷地を「宅地」という最大限利用可能なインフラストラクチャーにつくり直すことから、計画を始めた。「宅地」化にあたっては、様々な環境条件のパラメーターの中から、特に次の3点にプライオリティを置いた。
1.ある特別な事情から、西側隣地との関係を建築的に遮断すること。
2.北側全面道路から既存庭への視線の抜けを確保すること。
3.旺盛に雑木が繁った既存庭もろとも、1階を中心とした生活を日当たりのよい2階に持ち上げること。
ヒの字型断面の人工地盤は、これらの要請に応えるインフラとして構想したものである。その人工地盤上に、木造平屋を上下2層に分けて載せることで住宅を構成している。人工地盤によって1、2階プランを独立的に計画することで、2階のメインのボリュームの軸を振った配置が可能になった。その結果、隣接するお兄さんの家と共有のオープンスペースをめぐる囲み配置や、お兄さんの家の日照や眺望に配慮した配置、アトリエの採光面として高さの必要な北側ファサードの圧迫感の低減などを実現している。ヒの字型のRC躯体のうち2階スラブは、実際に純粋なキャンティレバーではなく、スラブ先端でT鋼の柱6本が鉛直力を負担している。ただしT鋼は2本ずつ対にしてトレリス状のメッシュを架けることで、柱としての存在感を消去している。また木造部は全てRC躯体への差し掛け構造であり、水平力はピン柱に乗った剛床のみによってRC壁に伝達される。木造部分には一切の耐震壁がなく、RC躯体が最終的にすべての水平力を負担している。こうして耐震要素を徹底的に集約した結果、RC造としてはかなりのローコストに仕上がっている(坪単価73万円)。このようにRC壁は唯一の耐震壁であるが、同時に設備系を集約したサービス壁でもあり、また近接する西側隣家に対して防火壁、防音壁の機能をあわせ持つ。さらには心理的にも、垂直に立ち上がった地面のようなリライアブルな効果がある。結果的に、全てがヒの字型のRC躯体に対してパラサイトのような関係であり、「ヒ」というストラクチュア自体が敷地の持つ可能性(環境条件)を再定義している。

所在地 兵庫県神戸市
用途 専用住宅
竣工年 2000
延床面積 164m2
構造/規模 RC造、木造 / 地上2階+ロフト