福島第一さかえ原発

2013 -

 

 忘れないために必要であった。少なくとも私は、知らないままでいることを怖いと感じた。原発とその事故のことである。それが原子炉建屋を原寸で描こうと思ったきっかけである。多くのボランティアとともに長い時間をかけて原子炉を図面でトレースする行為は、どこか写経に似ていると思った。建築教育においても、図面模写を通して学生は多くを学ぶ。実際、原子炉をトレースしてみてはじめて気付いたことがある。発電所全体の設計における作図の起点として、炉心(という架空の点)が存在しているのだ。つまり建築は原子炉という機械に従属する覆屋として位置付けられている。建築に原子炉が納まっているのではない。だから建築ではなく建屋と呼ばれる。そのことが、機械というよりまるで荒魂を扱う手付きを思わせて不気味であった。
 何より栄という場所とあいち芸文センターの巨大スケールが、原寸で原発を感じることを喚起させた。2階レベルでクランク状に連続するふたつの吹抜けに各階がバルコニー状に張り出す芸文センターならではの空間構成が、床、壁、天井にテープで描いた原寸断面図を統合的に感得できる絶妙な視点を提供してくれる。建築の生産現場では、原寸場と呼ばれる体育館のような場所で、床に文字通り原寸図面を描いて鉄骨部材等の納まりを検討することがある。ヴァーチャルな図面が物に転じ、図面に命が宿る場所である。今回、芸文センターは原発のための唯一無二の原寸場として見出されたのかもしれない。

開催地 あいちトリエンナーレ2013/愛知芸術文化センター(愛知県名古屋市)
用途 インスタレーション
開催年 2013
展示面積 16,791m2
テープの総延長 8 km
素材/技法 ラインテープアイロン圧着仕上げ、カッティングシート、発砲スチロール、コーキング用バックアップ材、合成樹脂塗料